
ロゴ
デザイン
「た」の文字をどう設計したか|ロゴ分解その1
たかちほ正史発酵蔵
2026/4/28
ロゴの真ん中に置いた「た」の一文字に、霧島の山と、山あいを流れる水と、完熟した納豆の一粒を入れています。
僕がいちばん時間をかけたのは、この一文字でした。
たかちほ正史発酵蔵のロゴ全体は、
マーク(囲い+「た」)/ロゴタイプ(屋号3行)/組み合わせ運用、
の3つでできています。今回はその真ん中の、一文字の話です。

[図1:「た」の3要素分解図] ⼀=霧島の山の稜線 + し=霧島山系の水 + こ/に=完熟した納豆の一粒 = 「た」
1|既製の書体は、最初から候補に入れなかった
マークの中の「た」については、既製の書体を起点にする選択肢を、最初から外しました。
良い和文書体はたくさんあります。屋号の文字組み(ロゴタイプ)のほうは、実際そういう書体を起点にして組んでいます(その話はロゴ分解その3で書きます)。
ただ、マークの中の一文字だけは、書体を起点にすると、どうしても「どこかで見たことのある形」になりやすい。書体が悪いわけではなくて、書体は誰でも広く使えるように整えてあるものなので、これはもう仕方のないことだと思います。
たかちほ正史発酵蔵のロゴは、「ありそうで、ない」と感じてもらえるところまで詰めたかった。だから、マークの一文字だけは書体起点を外す、と最初に決めました。
そこからは何案も並行して組みました。納豆一粒のかたちに「た」を入れる案、筆の勢いを強く残した案、屋号の頭文字以外をモチーフにした案、漢字の「高」を使った案。
それぞれの方向で何案か作って、屋号と並べた姿で見比べていきました。
採用案の決め手は、「ぱっと見て心が動くか」だった
何案も並べた中で、いまの「た」に決まった決め手は、ロゴ編まとめ(ロゴ編まとめ)に書いたとおり、ぱっと見たときに「素敵だな。期待できそう」と思ってもらえるか、でした。

漢字の「高」案は、意味は込めやすかったんですが、屋号と並べたときに少し硬く見えた。
筆寄りに振った案も、きれいには立つんですが、現代の食卓に置いたときに「老舗っぽさ」のほうに寄りすぎていました。
ひらがなの「た」で、筆っぽさを一段抑えた案を屋号と並べたときだけ、「なんかいいな」「食べてみたいな」と心が素直に動く感じが出ました。
これは、ネーミングを「たかちほ正史発酵蔵」に決めていったときと同じ判断軸でもあります(ブランド名を変えた話)。
重みや立派さで押すのではなく、心が動く入口になっているか。
屋号もマークも、そのまま、ひらがなの「た」に落ち着いていきました。
最後はクライアントさんと一緒に、屋号・パッケージ・売り場のイメージまで並べて、「もうこれだよね」と確認できたところで、いまの形になりました。一文字単独で完成させたわけではありません。
狙ったのは、和菓子のような静かな美しさ
採用案で狙ったのは、屋号と組み合わさったときに、和菓子のような静かな美しさが出る一文字でした。
蔵の重さ一辺倒ではなく、シンプルだけど、見ただけで中身が良さそうに見える。そういう温度が、一文字にも残るくらい。
なぜ和菓子のイメージだったかというと、混ぜない納豆の新しい体験をどう見せようか、と考えていった最初に浮かんだのが、小皿の上に納豆と薬味のトッピングをいろんな種類で並べたビジュアルだったからです。
粒の美味しさをどう伝えるか、と考えていったら、いろんな種類のきれいな和菓子を小皿に並べたような、見ただけで楽しくなる美しさに行き着いた。

[写真:俯瞰の4皿トッピング(桜エビ/アボカド/薬味味噌/パセリ・紫玉ねぎ)]
たかちほ正史発酵蔵が届けたいのは、毎日の食卓に置かれる納豆です。冷蔵庫から一袋出して、ご飯にのせて、噛む。それだけで朝が少し豊かになる体験。
世界観のプロトタイプも、写真キービジュアルも、同じ「旅館の朝・のれん・良い和菓子屋」の3つを基準にしています(世界観の試作・写真キービジュアル)。
マークの中の一文字も、同じ温度で並ばないと売り場でちぐはぐになる。
だから「た」も、そこに合わせました。
2|「た」の3画に、霧島の風景を重ねた
採用した案で具体的にやったのは、「た」という文字の3つの画それぞれに、たかちほ正史発酵蔵の納豆が育つ土地の風景を重ねていく、ということでした。
たかちほさんの風景を思い浮かべると、まず霧島の高千穂峰があります。そしてこの自然から流れてくる、きれいな水・おいしい水。
そのうえで、その環境で作る、豆にこだわった一粒と、それを支える技術がある。
マークを組むときは、こういう要素を頭の中に並べていきました。その中で、「た」という文字が成り立ちやすい3つの要素を選んでいったのが、いまのかたちです。

「⼀」(横画)=霧島の山の稜線
「し」(中央の縦+払い)=霧島山系の水の流れ
「こ/に」(右下のふくよかな部分)=完熟した納豆の一粒
「た」という文字は、横画と、縦+払いと、右下のふくよかな部分の3つで成り立ちます。土地から取り出した要素のうち、この字の構造に素直に収まるものを選んで置いた、ということでもあります。
書きながら、これは図らずも、と何度か思いました。
3|気づかれないくらいで、ちょうどいい
3要素を込める、と書くと「山を描いて、水を描いて、粒を描く」という発想になりがちです。でも、それをやると、ロゴが「これは山ですよ」「これは水ですよ」と説明っぽくなってしまう。
ただ、ロゴでコンセプトが必ず伝わる必要はない、と考えています。むしろ、ぱっと見たときに気づかれないくらいで、ちょうどいい。
だから、3要素の「絵」ではなく「性質」のほうを線に置き換えるようにしました。山のなだらかさは横画のゆらぎに、水の流れは縦画と払いの抜けに、粒のふくよかさは右下の膨らみに。
そのうえで、「混ぜない・粒立ち」も線の感触として残しています。線がにじまない、一画と一画がもたれかからない、というくらいに止めています。
書き上がった字を見て、たぶん誰も「これは霧島の山と水と納豆の一粒だな」とは気づきません。それでいい、と思っています。
「なんかいいな」と感じたあと、コンセプトの言葉と出会ったときに、そういえばあの一文字も、と無意識でつながる。そのくらいの距離で、ちょうどいい温度でした。
文字を組むときに僕が見ているのは、たぶんそういう「気づかれない繋がり」のところです。
そこにしかない風景を込めることで、ロゴは唯一無二のものになるし、ロゴ全体の空気感も生まれる。そう思っているからです。
4|単体では決めない。並んだ姿で決める
最後にひとつ。「た」を一文字だけ眺めて完成させたわけではありません。
ロゴ編まとめ(ロゴ編まとめ)にも書いたとおり、ロゴは単体では決めない。「た」も同じで、単体としていちばんきれいな形と、囲いの中に置いたときにいちばん効く形は、ぴったり同じではありませんでした。

[図2:囲いと「た」が組み合わさった完成形]
たとえば、単体で安定して見える太さよりも、囲いの中に入れたときには線をほんの少し細くしたほうが、囲いと「た」の太さが釣り合いすぎず、間に余裕ができました。
逆に、囲いに合わせて細くしすぎると、屋号と並べたときに頭一文字が痩せて見える。
囲いの中でいちばん良い形と、屋号と並んだときにいちばん良い形が、ぴったりは重ならない。
その間のどこに合わせるかを、屋号・パッケージ・売り場の中に置いて見比べながら決めていきました。
小さく見られたとき、囲いと組まれたとき、屋号と並んだとき。そのあたりまで見たうえで、ようやく形が決まる、という感じでした。
まとめ|次は、その「た」を包む囲いの話へ
「た」一文字でやっていたことを、もう一度短くまとめておきます。
既製書体を起点にせず、「ありそうで、ない」一文字としてゼロから組み直した
採用案の決め手は線の良し悪しではなく、屋号と並べたときに「素敵だな・期待できそう」と思ってもらえるかだった
「⼀=山」「し=水」「こ/に=納豆の一粒」と、霧島の風景3要素を一字の3画に重ねた
風景の「絵」ではなく「性質」を線に置き換えた(説明っぽくしない)
「混ぜない・粒立ち」を線の感触として残した
単体では決めず、囲い・屋号と並んだ姿まで見て決めた
ここまでが、マークの中の一文字の話です。
次の記事(ロゴ分解その2)では、その「た」を包む囲いのかたちについて書こうと思っています。完熟発酵の一粒のふくよかさを、丸でも角でもないどんな形にしたか、という話です。
文字と囲い、ふたつが組み合わさって、はじめてあのマークになります。
次に読む
ロゴの「囲い」を整える(ロゴ分解その2)
丸でも角でもない囲いに、何を残したかったか。
ロゴ編まとめ|判断軸3つ
ロゴ全体をどういう判断軸で決めたのか、上から見た一本にまとめています。
世界観の試作|ロゴの前に「体験の見え方」を確かめた話
和菓子のような美しさ、というトーンの基準がどこから来たか。
※本記事は許諾を得た範囲で、工程の考え方を記録しています。
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